レビュースポーツシーンや医療・介護など
スポーツクライミング 野口啓代選手と楢﨑智亜選手
東京オリンピックより正式種目として追加されたスポーツクライミング。
パフォーマンス向上のためにとマシン2台を導入してくださっている野口啓代選手と楢﨑智亜選手ですが、マシンを使用してみての効果や変化についてお話を伺ってみました。
また、お二人の身体ケアサポートを担当している福田和久先生は、栃木県宇都宮市にてマシンを活用したコンディショニングラボと整体院リズム×リズムを運営されています。
今回は、福田先生からもアスリートとマシンの相性や活用方法についてお話しをお聞きすることができましたので、アスリートへのマシン活用方法として役立つ内容になっております。
ぜひ最後までお読みください。
※本記事はホグレルスタイルVol.40をWEB用に編集したものです。
目次
スポーツクライミング選手がマシンを使用するタイミング
(野口選手)
マシンは、練習の初めと終わりに使うようにしています。
練習前にはまずテェストスプレッドで上半身、特に胸椎をほぐし、その後はインナーサイで下半身もほぐしたら競技のウォーミングアップに入っています。
クールダウンとしてもよく使うのですが、意味合いとしてはトレーニング後にどうしても力んでいる状態にある筋肉をほぐしてあげる感じです。
どうしてもケアというのは手間がかかるもので、以前は練習後には疲れて「ケアせずに早く帰って休みたい」と思ったりもしたのですが、マシンは部位ごとに細かくストレッチをしなくても、全身を同時にバランスよくほぐすことができるので助かっています。
(楢崎選手)
僕は練習前はそれほど使わず、どちらかというと練習中と終わりに使用することが多いかなという印象です。
なぜ練習中に使うのかというと、もっと量をこなしたいのに胸や腕の筋肉が張ってしまうことがあるからです。
クライミングでは石を掴むホールドがうまく出来ずに『ただ持つだけ』になってしまうと、身体を支持することができなくなってしまいます。そのため、挟んで押させ込むという動きを使わなければなりません。
この動きというのは、よく使うからこそ常に胸周辺に力が入った状態になりやすいのです。
ボルダリング、リード、スピードの3種目で全く異なる筋肉を使うこともあり、胸や腕周りを中心に全く動かなくなる時もありますが、そういった状態をほぐすためにもマシンはすごく役立っています。
マシンを使うと疲労が軽くなって、再び練習を頑張ることができるんです。
練習後や翌日以降にも疲労を残さないという目的もあって利用していますけどね。
スポーツクライミングにおける身体の使い方とは
(野口選手)
やはり、身体はある程度の丈夫さが必要になるかと思いますね。
3種目のうちリードとスピードは、筋肉や身体を全体的に使うため、バランスの良い疲労感がでます。けれどもボルタリングは部分的な筋肉を使うことが多いため、疲労がたまっていくことが多いです。
自分の限界を超えるようなときや、上手くのぼれなかったときは疲労が強くなります。
(楢崎選手)
僕も同じように感じます。
大会が近い時は練習量を増やしながら、より質の高い内容の練習を行いますが、それ以外の時期は基礎練習を重視しています。
昔は身体の動きなど全く考えていませんでしたが、人に言葉で伝えたり、教えてほしいと言われる機会が増えたことで自分の動きを考えるようになりました。
考えることで身体や動きへの理解が深まったと感じています。
(福田先生)
スポーツクライミングは一瞬で終わる競技ですが、複雑な身体操作も必要とします。
一瞬とも言える短い時間の中で、動きを止めたり力を入れたり抜いたりと、状況に合わせて上手く身体を使わなければいけません。
しかも、どんな課題をクリアしないといけないかは直前までわからないため、偏った筋肉をつけていると登ることができません。
野口選手と楢崎選手は、筋肉の付き方が均等で関節も綺麗に動きながら、必要なポジションをとる事ができます。
身体のことは本人たちがよくわかっているので、『痛くて動けなくなるタイミング』を自分たちで察知して、そうなる前にコントロールしています。やはり、一流の選手は自己管理能力が素晴らしい。
表面的な部分だけでなく、このような面も含めてスポーツクライミングを志す選手たちが憧れる存在なんだなと感じます。
スポーツクライミング選手の身体のメンテナンスで気にすること
(楢崎選手)
そういえば、野口選手は登りながら口を膨らませたりしますよね。
空気を身体の中で移動させることで重心位置を変えるイメージなのかと思いますが、脱力にも関係しているんですか?
(野口選手)
それもあるかと思います。そもそも私はあまり食いしばったりすることがありません。
食いしばって力を込めるよりも、少し力を抜いた方が動きやすかったり、呼吸もコントロールしやすかったりします。
登っていきたいのに、力が入ると重心が落ちてしまうので力まないように意識していますね。
(福田先生)
まさに、食いしばってしまうと身体も閉じようと収縮するので動きが制限されやすくなってしまいますからね。食いしばらないということが、関節などを傷つけず健全な身体を維持できる要因でもあるのかもしれません。
やはり、マシンの操作と同様に『必要以上に力まず、力を抜く』ことが重要なのだということが分かります。
施術でマシンをどう活かすか(福田先生)
僕が治療家として、どのような形でマシンを活かしているのかを説明しますね。
選手を診る際は、まず初めに直立した状態での鎖骨の向き、胸椎の緊張などを確認していきます。
この確認がないと自分の施術とホグレルの効果を確かめられませんので、私にとっても選手にとっても凄く重要です。
確認後は、まずインナーサイを使い股関節→脊柱起立筋の順にゆるめ、肩回りはチェストスプレッドを使い動きを出していきます。同時に手技では、股関節の緊張具合や足首の動きなどを本人に感覚を確認しながらすり合わせてチェックをします。
もし、引っ掛かりがあればマシンを使いながら解消していくのですが、身体を適度に軽く揺すり、これから動かすことを身体に知らせてあげます。
マシンは左右均等の動きができますが、身体が上手く動かないときは、腰・仙骨などを手技で調整しています。それでも整わない場合は、テェストスプレッドを使って胸椎へアプローチすることもあります。
2人が目指す身体とは
(野口選手)
以前、足を怪我したことで、身体に少し左右差があり競技にも悪影響が出ていました。
ですが、福田先生に施術をしていただくのと、マシンを使いだしてからは左右左も随分解消されているように感じています。
前と比べるとかなりバランスの良い身体になってきているのですが、更に良くしていきたいと思います。
(楢崎選手)
自分が苦手としている動きを改善するための身体を作っていきたいです。
例えば、自分は胸を立てた状態で身体を面で使うことが苦手なのですが、これを克服するためには良い姿勢で登り続けることが重要だと考えています。
良い姿勢を維持できれば、背中の筋肉もより効率的に鍛えられ結果的にバランスの良い動きにつながるはずです。
マシンは、良い動きを獲得するための「良い姿勢」の維持に役立っていますね。